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この度、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック (1864- 1901年) が生涯にわたり残した全版画を一挙に公開する日本 で初めての展覧会を開催することになりました。
南フランスの貴族の家に生まれたロートレックは,子供の 頃の事故がもとで短軀のまま成人, 故郷を離れてパリの歓楽 の巷に画家として生きたことで広く知られています。 彼は, モンマルトルの酒場に遊興する人々, 劇場の踊り子, サーカ スの曲芸師などを活写し続け、ドガの影響などを受けながら, 頽廃的な主題の中に“生”そのものを追及し、36歳の若さで 生涯を閉じました。 その作品の数々は悦楽と哀愁とをたたえ つつ, 19世紀末のパリに展開した風俗を表現しています。
1891年, 27歳で始めたリトグラフ (石版画) の最初の作品 ≪ムーラン・ルージュ, ラ・グーリュ≫が成功をおさめ、それ以 後死の前日まで, リトグラフの制作を画業の中心としていま した。 この晩年の10年間は, ロートレックの画業においてめ ざましい発展の時期であり,油絵, 水彩画, 素描といった作 品の大多数は,ただ一枚のリトグラフを完成させるための たゆまない探究にほかならなかったといっても過言ではあり ません。また,これらのリトグラフは一点一点に着想を凝ら し, 新しい技法を試みただけでなく, 刷り師を選んで少数し か刷っていないため、刷りの状態は完璧で,厳選した版画用 紙と相まって,きわめて鮮明で感動的な出来上がりになって います。
本展は, 1987年1月から1988年3月にかけて西ドイツ国内4 会場を巡回、 数十万人の観客を動員し, 1988年秋にはロンド ンのロイヤル・アカデミーでも開催されて人気を博しました。 これまでも何度か日本で紹介されてきたロートレックです が,本展は彼が版画芸術を開花させた大版画家でもあったこ とをうかがい知ることのできる, 日本の美術ファンにとって 極めて貴重な機会になるものと確信いたします。
最後に、本展開催にあたり,ご後援いただいた外務省, 文 化庁,フランス大使館,またご協賛くださった花王株式会社 ほか関係各位に対しまして心からお礼を申し上げます。 1990年
主催者

表紙小傷、小汚れ。ページ小黄ばみ。もちろん読む分には問題ありません。

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