昭和六十年四月
ごあいさつ
笠間稲荷美術館
館長塙瑞比古
特別展「雪村 常陸ゆかりの画人―」 開催にあたりまして御挨拶申しあげます。
雪村は、戦国の乱世にあって東国(関東~東北)を舞台に活躍した画家であります。 雪村は永正元年(一五〇四)に常陸太田の豪族佐竹氏の一族として生まれ、雪舟に私淑 し、鎌倉、小田原、会津などを遍歴、晩年に至って奥州三春の地に隠棲したと云われてい ますが未だに不明の点も多く残されています。
しかしながらも、その画跡は次第に国際的に評価され、今日では西の雪舟に比肩すべき ものになってきました。
雪村画は、幅広い題材と画法はもとより水墨画の日本への土着化を果たしていますが、 画格は高く、禅画と文人画を兼ね備えた趣きがあります。
私が雪村への志向は、國學院大學国史科に在籍していた大正十一年頃にまで遡ります。 当時、最新の学問としての考古学に興味を持ち、全国を歩き遺跡の発掘調査に没頭して居 りました。その頃、私に美術の素晴らしさ、そして楽しみを教えて下さったのが当時東京 帝大教授の藤懸静也先生でしたが、その御教示の中で、雪村祥啓など関東水墨画壇の画 人達についても知ったのであります。とりわけ雪村は、自分と郷土を同じくすると云うこ ともあり強く魅かれるものがありましたが、後には雪村ゆかりの常陸太田と祥啓ゆかりの 結城とを結ぶ道すがらにある笠間をも雪村が歩いたに違いないと考えるに至ったのであり ます。
去る昭和五十六年春に当美術館が竣工致しましてからは、私の雪村を思う気持ちは一層 深まり、是非雪村ゆかりの当地にて雪村展を開催しなければならないと考え、展覧会の企 画を温めてまいりました。このたび関係各位の絶大なる御協力のもと、当地にて雪村展が 開催されるはこびとなりました。
御縁あって当地に集まった「雪村」たちを心ゆくまで御鑑賞いただき、雪村の全てを偲 んでいただき度く存じます。
この展覧会の開催にあたりまして作品の選定から解説文の執筆に至るまで全面的に御教 示をいただいた慶応義塾大学教授の衛藤 駿先生に厚く御礼申しあげると共に、快く御出 品、御協力を賜わった茨城県歴史館・茨城県立美術博物館・栃木県立博物館・常陸太田市 郷土資料館・三春町歴史民俗資料館・鹿島神宮・厳島神社・大和文華館・根津美術館・及 び個人所蔵家の皆様方に深く感謝申しあげる次第であります。

表紙小傷程度です。