平成14年　127ページ　　部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。

讃岐の国の江戸時代の科学者で発明家と言えば、即座に「平賀源内鳩渓」の名がかえってくる。 それほど源内は有名で、その生涯も業績も良く知られている。
それに比して「久米栄左衛門通賢」という人物はどうであろう。香川県でこそ久米通賢の名を知る人は あっても、全国的には無名の人物で、一部の研究者が知るのみである。
私が初めて、久米通賢の関係資料に接したのは三十年以上も昔のことで、香川県坂出市にある鎌田共済 会郷土博物館の展示室であった。

高松市の玉藻公園内の松平公益会にも数多くの作品や資料が保管されていた。通賢の作品は銃砲火器・ 弩・測量器・時計・扇風機・揚水ポンプ・マッチなど多岐にわたっており、土木工事や産業政経への提案などマル チ人間とも称される驚異の人である。
平賀源内と久米通賢は、その生きた時代が一世代ことなり、この世で顔を合わせることはなかったが、現存 する器物や発明製作品は圧倒的に通賢の方が多い。
なかでも銃砲大砲などの火器は残存品が多く、今なほ各地で発見されている。アメリカやドイツでも発見 され、貴重な資料として紹介された。
久米通賢の兵器に関する研究は天文学や測量学に並行しておこなわれており、大阪間家での留学を終 えて帰郷して間もない文化初年から始まっている。
強い愛国精神と国防意識を生涯を通じて抱いており、天保十二年六十二才で世を去る前年まで兵器の
研究と発明は継続している。
。
通賢翁の兵器に関する着想や発明開発のヒントの多くは、中国の兵書「武備志」に求められている。 「鉄砲伝来」以降の日本の銃砲史を熟知した者の目から見れば、通賢翁の武器火器の開発はユニークであり、 尋常なものではない。
ただ一般には知られず、学者や専門家に深く研究されることもなく今日まで歴史の闇にうも れてきたのである。
我が国に伝来した最初の鉄砲はヨーロッパで開発された前装單発式の火縄式銃砲であり、その祖型は明治 初年まで守りつづけられた。
この旧式火縄銃に飽きたらず、通賢は数々の新式銃を開発したのである。

東洋的なアイデアと狭い門戸から入るヨーロッパからの情報を自らのものにして、完成度の高い銃器を完成
近代銃砲から見れば、それは過渡期の発明品ではあるが、当時としては最先端の優秀な作品であった。

本書は久米通賢の銃砲火器の全てを網羅して述べている。時には分解整備して操銃性能を検証し、その 撃発原理の図解も試みた。
江戸や全国各地で活動した平賀源内と、生涯の殆どを讃岐の国内で過ごした久米通賢とは、全国区と 地方区の差がある。
「非常の人」といわれ、派手に活躍した源内と地味で目立たない通賢の性格の相違も知名度に大きくか かわっている。
しかし科学者発明家としての業績は平賀源内にも劣らず、両者を並べて讃州が生んだ「江戸時代の大科 「学者大発明家」として賞讃すべきである。

表紙小傷程度で特に目立った傷や汚れはありません。