1993年 177ページ

兵庫県立近代美術館と神奈川県立近代美術館は、両館の共同企画として特別展「描かれた歴史近代日本美術にみる伝説と神話」を開催します。
「ともに「近代」という看板を掲げる両館は、それぞれにこれまでの活動を通じて、近代日本 美術の成り立ちそのものへの関心を強めてまいりました。 兵庫県立近代美術館は23年間、神 |奈川県立近代美術館は42年間にわたって、 さまざまな美術作品を収集する一方、数多くの展
覧会を企画し、日本の美術のみならず、ヨーロッパ諸国を始め諸外国の美術をテーマにした 展覧会も開催してまいりました。そのなかで日本の「近代」と関連する展覧会として、兵庫県 立近代美術館では、1974年の「日本洋画の原点と開花」、1985年の「大阪・神戸のモダニズ
「ム」、1989年の「画家たちの関西」、1990年の「日本美術の19世紀」、 神奈川県立近代美術 館では、1965年の「司馬江漢とその時代展」、1966年の「近代日本洋画の150年展」、1971年
の「高橋由一とその時代展」、1992年の「火と炎の絵画展」などがあります。
こうした経緯を踏まえて 「描かれた歴史」展は企画されました。 「美術」という枠組みが形成 された明治期の絵画を、「歴史画」という観点に的を絞って検証し、「歴史画」の抱えるさまざ まな問題を見るとともに「美術」の成立過程を探ることもこの展覧会の大きな目的です。
しくヨーロッパの文化がなだれ込んできます。 もちろん美術の分野も例外ではなく、 ヨーロッパ 幕末から明治維新を経て、 富国強兵、殖産興業の時代に入ると社会のあらゆる分野に新 美術の合理主義的な精神とその技法・技術の側面が重んじられて盛んに取り入れられ、日
本の美術は近代化の過程と歩みを共にするようにして変化しました。
しかし、事情はそう簡単ではなく、 明治初期の欧化主義、それに続く反動としての国粋主 義の時期、 そして日清、日露戦争を通して整えられていく帝国主義の時期というように、時代 の変化にともなう社会の要求によって、美術の中に現れる対象も変わります。とりわけ明治の 20年代は、官設の美術学校ができ、 博覧会や美術展覧会がつぎつぎに開かれ、 美術団体 が生まれ、いくつもの美術雑誌が創刊されて 「美術」を支えるさまざまな制度が一応の体裁を 整える時期にあたります。 「歴史画」の隆盛は、こうした日本の近代化の過程と「美術」の制度
が歩調を合わせる明治20年代、30年代にもっとも顕著なものとなります。
西洋では、歴史上の出来事ばかりでなく、伝説、神話、宗教、戦争などを描いた絵画をも 含めて、それらを広い意味で「歴史画」と呼び、それは、肖像画、風景画、風俗画、静物画よ りも高い位置を与えられてきました。歴史的背景の違う日本では「歴史画」の意味する内容も 多少ちがいますが、山本芳翠や原田直次郎、あるいは黒田清輝のような、早い時期にヨー ロッパに留学して、西洋の美術とそれを支える考え方に直接触れた画家たちそれぞれが、伝 説や神話をテーマに構想を組み立てた作品を生みだしました。 その一方では、江戸時代以 来の歌舞伎などで演じられていた史話を主題にした絵画も描き続けられてきましたが、その 流れは絶えることなく菊池容斎やその薫陶を受けた画家たちの手で保たれていました。 また、 フェノロサや岡倉天心の主張する日本画の革新のなかでも歴史主題の重要さは強調され、そ の内容と描き方が問われます。

表紙小傷。背表紙やや色あせ。ページ小黄ばみ。もちろん読む分には問題ありません。

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