昭和四十六年の一月から十二月まで、雑誌『淡交』に一行物の解説を連載したところ、意外に反響 があり、これを補充して単行本として出せとの要請が読者の諸賢と淡交社とから寄せられた。その要 請にこたえるべく仕事を進め、今ようやく刊行にまでこぎつけた。収録したのは百十句であるが、そ の句の選定にあたっては、禅語として含蓄が深く茶室の掛物としてふさわしいもの、また従来一行物 としてよく揮毫されているものということに、選定の基準をおいた。そして「東山水上行」 「前三三 後三三」などのように今日も禅家の公案として生きており、しかも解説すると見解を教えることになるもの、「乾屎」「白拙賊」などのように禅語としては面白くとも茶室には不向きなもの、また一 読して意味の分るものは原則として割愛した。なおグラビアの図版には多方面の禅者による多様な句 を載せたいと思ったが、種々な制約のため、それを十分には実現できずに終った。その実現は未収の 句の増補とともに、他日を期することにしたい。
禅語というものは、もともと言語道断な禅の悟境を仮りに文字に表現したもので、これを悟りの体 験のない方に分らせることは本来不可能なことである。しかし説く以上、眉鬚堕落を恐れず、できる だけ筋を立てて説いたつもりである。もっとも禅語はその人と時と場合とによって種々の意味に用い られ、かつ高くも低くも解釈できるものである。

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