昭和53年　227P
植木武君の『南太平洋の考古学』が完成しようとしている。この出版には多少の因縁があるので幾多の感慨が去来す
著者ならびに学生社からの要望もあるのでそれを序すこととした。
植木君がポリネシアの考古学を勉強したいといって私のところに見えたのは十数年前、まだ明治大学の学生だったこ ろである。ポリネシアについてずぶの素人である私は一瞬戸惑ったのである。たまたまポリネシア協会のジャーナルを 愛蔵し、また、ポリネシアやメラネシアの民族誌方面の著書や論文に多少親しんではいたものの、それはミクロネシア 研究の補強に役立てようという程度のものだった。植木君より十年程前であったか、当時京都大学考古学科の学生であ った石毛直道君がやはりポリネシア考古学をやりたいといって私の手許から両三回文献を借り出していったことがある。 石毛君が私の所に出入りしたころであろうか、渡米した篠遠喜彦君がハワイ大学を了え、ビショップ博物館のエモリー 博士の許でポリネシア考古学の研究を本格的に開始しつつあった。

しかし当時の私にはポリネシア考古学という言葉は何やら異様に感ぜられたのである。欧米の人々はヨーロッパ人が 南海を探検し、植民地支配を行なうに至る前と、彼らが土地の人間と接触を深めて行く中とでは、未開と開化の断層が あり、欧米人渡来以前は別世界であると決めたがる傾向がある。それにしてもヨーロッパの民族学者は欧米人渡来以前 と以後とで土地の人間の中に断層を生じたとは考えていなかった。

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