昭和59年　129P

私には、日記をつける習慣は全くないが、友人、知人で克明に日記をつけている人を、たくさん知っ ている。その人の性格にもよるだろうが、時を経て読むと実に楽しく、面白いという。その気持ちも、 わからぬでもないが、日記といえば、古来から有名な、○○日記とか、ごく近代でも、×× 日記として、 歴史の証言的に登場してきて、世間の耳目に衝動を与えたことは、衆知の事実である。

どんな日記でも、その性格上、つまり最初から、公開を旨としないのべ方が、予想外の反響を齎ら すことも否定できない。

この「秋田日記』を初見した時の感激は、いま以って忘れない。実に風変わりで、何とも面白いの である。藩命で、米を買い付けに来ているにもかかわらず、行く先々での遊興のことが、巧まざる筆で、 淡々と書き流しているのである。固くるしい、記録に詳しい日記は他にも、いくらもあろう。しかし、 こんなにくだけた日記は、そうざらにあるものではない。

タテ、七・七センチ、ヨコ、一七・五センチ、紙数、本文五五丁の、この懐中日記は、一四七年後のいま、 いろいろなことを語りかけてくれる。

矢島で丹鳥、小安で牛若丸などという、源氏名の女がいたことは、いままで、どんな本を締いて も聞いたこともない。絵心のある筆者の、スケッチが添えられているのも、この日記の面白味を倍増 してるし、当時の風俗、風景実写の貴重なる資料といえよう。久保田と横手の婦女の風俗だって、丸 置に弁、奴の髪型は、江戸風だし、就中、傑作は「秋田音頭」の踊り子の装いである。向って右の 女は、帽子をつけ、弁をさしている。着付けは、友禅と見える布地に、匹田鹿の子、花菖蒲の模様、 高下駄をはいて留袖である。左の女は、振袖に十六ささげをつけ、髪は島田髷だろう。


中古品ですので傷・黄ばみ・破れ・折れ等経年の汚れはあります。外箱傷、やややけ。
もちろん読む分には問題ありません。41311新

なお細部に至るまではチェックしきれない場合がありますので、書き込み・線引き・記名・蔵書印・値札等ある場合があります。ご理解の上、ご購入下さい。