2009年　242ｐ

流光斎如圭 りゅうこうさい-じょけい
?－1810?　江戸時代中期-後期の浮世絵師。
大坂の人。蔀関月(しとみ-かんげつ)にまなぶ。上方様式の役者絵を確立し,寛政4年ごろから役者錦絵をかく。芝居関係本や読み本などの挿絵も手がけた。文化7年？死去。姓は多賀。通称は慈平,子健。作品に「画本行潦(にわたずみ)」など。
出典　講談社

はじめに
流光斎の作品との出会いは、大英博物館での展覧会Kabuki Heroes on the Osaka Stage: 1780-1830 (2005年) (この展覧会は日本にも巡回し、2005~06年にかけて『大坂歌舞伎展-上方役者絵と都市文化』として、 大阪歴史博物館、 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館にて開催) の準備のための調査を始めた頃であっ た。もう七年前になろう。流光斎の錦絵、 肉筆画、 墨摺絵本を見れば見るほど、まさに「妙」と言うべ その作風に驚きと感動を覚えた。 彼の作品は日本ばかりでなく、世界各地に所蔵が確認されている。 現在知られているところでは、イギリス、フランス、ハンガリー、ベルギー、ドイツや、米国のボスト ン、ニューヨーク、シカゴ、 ミネアポリス。 海外にあったものが里帰りして日本の美術館の所蔵になっ た作品もあるという事実が物語るように、実に広く散らばっていた。本図録の目的は、世界中あちらこ ちらにある流光斎の作品 (版画と肉筆画)を初めて一冊の本にまとめ、さらなる研究の発展のために供 することである。
上記の展覧会準備の時期に、思いがけない幸運が起こった。戦前から知られた大阪の岡田伊三次郎氏 の膨大な上方絵コレクションは、戦後その存在がよく分からなくなっていた。 ところが2002年であっ たろうか、突然に、前代未聞の数の上方役者絵が、 月々に分割して一回に100枚あるいは150枚という 単位で、 日本の美術市場に出回るようになった。 それが岡田氏旧蔵の作品であったと分かった時には、 すでに約10,000点が売られてしまっていたという。 そのうちに流光斎の作品もあった。 しかしながら幸 いなことに、流光斎作品の大部分は、 上方絵専門のディーラーである、 ピーター・ウィラキ氏によって 買い取られ、 武庫川女子大学関西文化研究センターをはじめとする日本の諸機関や大英博物館の所蔵と なった。 過去に流光斎の作品がこれだけまとまって世に現れることはなかったので、これは大変な出来 事であった。 これを切っ掛けに、 いつか流光斎の全作品の図録を作ろうと考えるようになった。
武庫川女子大学の関西文化研究センターのサブプロジェクト「上方芸能の視覚文化的特質について」 のリーダーとして、ガーストルは、同プロジェクトメンバーであった大英博物館のティモシー・クラー ク氏と上方役者絵の展覧会 (上記) を企画実現した。 また本図録に執筆している矢野明子氏は、同展覧 会のプロジェクトメンバーで、 太田記念美術館浮世絵助成金を受けて、ヨーロッパ・米国・日本にあ 流光斎作品の調査を行い、 全作品図録の基盤研究ができあがった。 それから数年、 武庫川女子大学関 西文化研究センターの惜しみない協力と、 日本内外の研究者諸氏からの助言によって、さらに研究を深 め、整理し、今回の図録の発行にいたった。
流光斎の作品数は江戸の浮世絵師ほど多くはないが、 この十年間のうちに、旧岡田コレクションをは じめ、 かなりの作品が動いた。 それにも拘わらず、殆どの場合新しい所蔵先をつきとめることができた のは幸運であった(流光斎があの世から働きかけているのではないかと思うことさえある)。その結果、 この 『流光斎図録』 には全59図の版画作品と肉筆画作品を掲載することができた。 作品の配列順は、版画・ 肉筆画それぞれ、 作品考証に流光斎の様式的発展を考え併せ、彼の画業の展開についてのひとつの見解 を示すことを意図した。 また参考に4点の流光斎の役者絵本も掲載した。 これを基礎に、流光斎ならび に上方役者絵、ひいては上方文化の研究が一層進展することを願っている。
ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院教授
アンドリュー・ガーストル

表紙小傷、小汚れ。ページ小黄ばみ。もちろん読む分には問題ありません。

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