昭和62年　203ｐ

はじめに
絵本をめくって、子供たちは時を忘れた舞台にあそぶ。 ライ フタイムの加速に悩まされはじめた大人たちにも、このような “時を忘れる” 絵本があってもよいのでは・・・・・・。 こういった動 機が、 この写真集の構成につながった。
いわば、"大人の絵本”づくりである。
この絵本に登場するのは野生のラン” で、男の私にとっ ては、すべて女たちである。 このなかには、精子と卵子の出会 いに始まり、胎児もいれば幼児もいて、いたずらざかりの童女も いる。 清楚な乙女もいるかとおもうと、露出ずきの野生の娘も、 すました貴婦人に悩殺美女もいるというわけだ。 これだと "人 生ドラマ”に似せた脚本が描かれてもおかしくない。
考えてみると、人間だけがドラマチックな人生を送っているわ けではなかろう。 地球上の生物は "生存をかけた繁殖行 為”のドラマをもっているはずだ。 これが、遺伝の情報というド ラマツルギーになって種属を発展させた。 自己演出のへた な生物は絶滅し、面白い演出法をもった生物は生き残ったとい うわけである。これを種の歴史といおう。
では、ここに登場する女たちはどうであろう。 人間の出現より もはるかに古い2億年ちかい派生の歴史をたどると、生き残った だけではなくて、 赤道の下から北極圏にまで、ヒマラヤの高地から平野にまでも拡がり、その種属は万を単位とする。となると、 彼女たちのドラマツルギーは、面白いだけではなくて、謎めい
た暗示をわれわれに与えかねない。
その暗示とは、万物の霊長だとうぬぼれている人間たちを魅 入らせてしまう“幻惑のエネルギー” であろうか。それともナ ルシステックで露出を気にしなかったり、エキセントリックで草 花のなかでもひときわ目立ったり、奇妙なパーソナリティが魅 力となって、神秘的にみられる “百面相のように千変万化”の
彼女たちのなかに、謎が隠されているのだろうか。
この謎めいたドラマツルギーを“擬人化” ということでまとめ たのが、この写真集である。 テーマは3つにした。 1部は“女 の一生”に似せて構成したもので、乙女から成熟した女たち のイメージをもつ花を登場させ、 受胎 歓喜 いたずら好き...... と続く。 2部は写真家の眼でみた "種の進化” を構成したも ので原始人から現代人のイメージをもつ属を登場させ、変化
・・・・・・と続く。 3部はこれらを下敷きに “創造の謎"
についてまとめようと試みた。 クリエーションとは造物主のみが 使う言葉だという。 彼女たちの姿態から感じるミステリアス
が、貴方のライフタイムにブレーキをかけるかどうか・・・・・・。それ は、貴方が造物主にならなければなるまい。

外箱小傷、小汚れ。もちろん読む分には問題ありません。

なお細部に至るまではチェックしきれない場合がありますので、書き込み・線引き・記名・蔵書印・値札等ある場合があります。ご理解の上、ご購入下さい。