荘園公領、あるいは地頭・御家人の国別研究は、すでに早く、田中稔氏によって先鞭がつけられ、以後、石井進氏による得宗領の地域的研究をはじめ、すぐれた成果を生み出してきた。とくに最近、県史・市町村史の編纂の活発化に伴い、その通史編の叙述、あるいは編纂事業に付随して広く発刊されるようになった県史研究・市町村研究誌上
の論文を通じて、この分野の研究には、めざましい進展があったといってよかろう。
それは荘園公領制、地頭御家人制そのものの解明に大きな寄与をしているだけでなく、それぞれの地域の個性を明 らかにし、地域史研究の発展のための広い基盤をつくり出しつつある。さらにまた、最近、近世史の分野までふくめ て議論の活発化しつつある、国郡制の問題、国・郡の機能を具体的に解明するためにも、こうした視角からの研究は、 今後さらに深化させる必要があるといわなくてはならない。これまで私自身も、さきのような諸研究の驥尾に付して、 若干の試みをしてみたのであるが、ここでは長年住みなれた尾張国について、一国的な規模で、荘園公領の実態と、 地頭御家人の動向について、総括的に追究し、その特質を考えてみたいと思う。
尾張国のこの分野については、戦前の『愛知県史』『名古屋市史』等をうけつぎ、戦後、『一宮市史』『稲沢市史』 をはじめとする多くの市町村史の編纂を通じて、研究の基礎となるべきすぐれた史料集が刊行されるとともに、綿密 な個別研究が蓄積されてきた。

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