本品は、紀元前後～800年頃の西アジア護符玉で、細長の円錐台型のクロライト製ビーズです。

　穿孔は丁寧で、直線的な孔でなく、縁よりも内側がやや狭くされ、使い込まれたため縁は丸みを帯びています。上部の長方体に穿孔され、その下は滑らかに丸味を帯び、底は円形となっています。色は黒ですが、良く見ますと、少しキラキラする半透明の黒茶の斑点や細線もあり(2枚め）、孔の横の白茶の斑点と一緒に、自然石がもつ隠れた模様となっています。

　黒色の素材はクロライト（緑泥石）で、色は緑か黒緑でガラスに似た光沢があり、本品では見られませんが、うろこ状の層をなし、モースの硬度2-3と柔らかく加工し易く、古代から使用されてきました。なお、今日、心の緊張やストレスをほぐし、癒しを与えてくれる効果があるとされます。

　黒色で本品に類似した形状のビーズが、A Bead Timelineでは前5000年～前4000年頃の欄に掲載されています（207番）。また、前3000年頃には、クロライトではありませんが、アラバスター製の白い類似形状ビーズ（286番の左）が、前3400－前3300年ころシリアのハブバ・カビラ遺跡から出土した護符の類例と説明される動物型護符と一緒に掲載されています。

　前3000年過ぎたころには、細形の滴形と並び、本品と同型で黒茶と赤茶ビーズが、素材は記されていませんが掲載され、細長い円錐台型の護符が広く各地で使用されたことがわかります。

　また、エラム国は、ほぼ現在のイラン中部にあたるトランス・エラム地域で出現し、紀元前3200年～紀元前539年頃まで存在ましたが、エラムではクロライト製容器が宗教的意味をもつ宝器として入念に加工・制作され、これら宝器はシリアからインダス河流域まで広く交易されました。

　研究書に紀元前後から800年頃もその後も、クロライト製護符は掲載されませんが、その後も制作された可能性はあります。しかし、本品クロライトのもつ社会的特徴は、前3000年頃には、貴重な鉱石して交易され護符や容器に使用され、太古から精神的意味を有しました。

　クロライト製など小さなビーズを数個に繋ぎ手本に置いていただければ、前3000年期からローマ期、イスラム初期、近世までの「とき」に思いを巡らせ、今日の癒しに繋がりそうです。

サイズ：縦約11㍉　横（底）約6㍉　孔径約3㍉