小さな胎に、端正なアイを緻密に施した、4-10C頃に制作された美玉です。

　小さな胎を彩る4色のうち1つめは、細長などのアイを作る、クリアな濃い青と明るい青（画像では青緑）です。2つめは不透明な白で、アイを囲み、通常の保護円盤にあたる、細長楕円や線状アイを囲む極細楕円、歪んだ三角、曲がった線などに用いられています（2-3枚め）。

　3つめは赤で、胎をなす多くのアイ小片を囲み、黄と混ざって網の様に広がり、本品を赤系ビーズとしています。4つめは黄で、側面の赤と混じった細線や、穿孔面のアイ・モチーフ一番下の4層に使われ、黄の部分には、細い黄緑とクリアなピンクの細線も見られます（10枚め）。青、白、赤、黄の4色が織りなす小モチーフが、華やかで楽しげな風合いとなっています。

　アイ・ビーズは、通常、白い保護円盤（台）と、その中心にアイ（瞳）を置く2層モチーフや、また、2層の間に黒などの層を入れ、3層や4層の丸形モチーフに整えますが、本品は、先例から自由に成形され、このことも楽しげな風合いを強めます。穿孔面近くの茶の円盤の端に置かれた、白枠に大きなクリアな水色のアイの中央に淡い白を置き、また、穿孔面近くでは白の台には、青と赤茶のアイ2つを施すなど、変則アイを思いのままに描きます（7、9枚め）。

　肌に若干の銀化がみられるとされ、大きな濃い青のアイや数個の青のアイに含まれる、多数の小さな孔に、金色に輝く物質が埋まり、その横の赤茶や黄の一部にも孔に同様な物質が見られます。

　A Bead Timelineに拠れば、本品が制作された4-10Cのうち、4－5C頃には通常のアイやアイ・放射紋のビーズが掲載され、6-7C頃の貼眼小玉10個のうち4つほど、多色で黄の三角と赤茶の枠のビーズや、多色の小さなアイ多数のビーズなどがあり、本品もこの類例と見なせそうです。9-10C頃には整ったアイ・ビーズやササン・ビーズなど大玉が増えています。

　こうした経緯に従えば、小玉の本品は、ローマ期のアイ・ビーズから、ササン・ビーズも成熟する、初期イスラム期のアイ・ビーズへの推移期に出現した、自由な気風を映すビーズと考えられます。華やかで楽しげな風合いの一方で、緻密に施された端正な（変形）アイも美しい、どこかウキウキさせてくれるビーズです。

サイズ　高さ　約6㍉、幅　約7㍉　孔径　約3㍉弱