嶺田楓江 著
嘉永5年 写
楓江はこの著作が幕府に問題視され、3年間の投獄と追放刑を科せられた。

「怪獣図」は、
「（阿片戦争最中に）処州府青田県の山中から怪獣が現れ、此処彼処を駆けめぐり、梢に登り岩窟に身を隠し、雨に啼き風に叫び、夜には街へ出て家々の戸を叩き人々の眠りを醒ました。
身の丈二丈、二つの頭が重なり合い、上の頭は両目を見開き、下の頭は三つ目を見開く。手足は四つ指で爪は錐の如くに鋭い。上の頭に巨大な口あり、常に青い煙を吐き、それに触れた者は日を経ず必ず死ぬ。毒気を受け地元の数百人が死んだ。
緑の鱗は金鉄よりも堅い。勇敢な市民が斬りかかるが青い煙を吐いて姿を眩まし、鉄砲を命中させても全く鱗を貫通しない。
尚も怪獣は跳舞戯嘲する。捕獲すれば褒美千金を与えると鎮台が軍民に令を下したが、毒気を恐れて誰も捕まえない。
昔、康熙四十九年にもこの怪獣が粤省の海辺に現れたが、誰も傷つける事は無く、遂に海中へ身を投じた。」
イギリス水兵を怪物だと錯覚したという説もあるが、人心不安定な時期の流言か。
清の一地方に怪物が出たという話自体も江戸時代の随筆に散見される。

目次
・鴉片煙流毒 付 黄爵茲上書之事
・林則徐広東政務を掌る事
・英国使節広東に到る事
・楊靖江穿山洋に於いて夷舩を襲う事
・英吉利王諸将に命じ舩軍を発する事
・英夷定海城を陥る事
・青田県に怪獣出る事
・英将義律天津口に到る事
・官軍広東に到着 付 夷舩焼討の事
・粤秀山観音霊験の事
・道光帝逆鱗 付 琦善罪科に行わる事
・郷勇英夷と戦闘の事
ほか。