本品は、紀元前後～200年、ローマ初期に西アジアで制作されたファイアンスで、表面に淡い薄青の釉薬がうっすらと残り、孔の中の端まで釉薬が入り込んでいます。整った格子状の切り込みの溝の多くと凸型部にも、釉薬が綺麗に残っています。縦に3本か4本の切り込み線で格子紋に彩をもたらす工夫されたザクロ型で、種の詰まったザクロは、西アジアなどで多産と豊穣のシンボルとされます。

　A Bead Timelineでは、前200年～前100年頃に、15ほどのファイアンスが掲載され、多くはエジプト製で釉薬無しの鮮明な青色で、1つだけやや緑がかった黄です。紀元前後～100年頃に、20ほどの襟付き壺型などでは、多くが白っぽい緑で、1つだけ本品と類似の淡い青（水）色で、入手時の説明で本品もこの時期に該当します。

　ファイアンスは、ガラスの先駆とされ、前4000年までにメソポタミアかエジプトで発明され、トルコ石など貴石を高価でない素材で再現し、大量生産用に発明された最初の合成素材と言われます。エジプトでは、前2000年頃の初期ファイアンスは、酸化銅で青く着色されました。

　同書には西アジアとイランで制作のファイアンスが掲載され、前800-前700年頃の20個以上では、白、黄、薄い水色とやや緑のファイアンスが見られます。前700-前600年頃の20個ほどでは、白、黄、本品のような薄い青（2個）と多色で、エジプト欄には濃い青が掲載されています。

　ファイアンスは、主要素材としてシリカ（砂状や粉状の水晶）に、少量の植物灰など加え、これに石灰を加えます。ソーダと石灰は、シリカを完全に融解させるほど十分な量ではなく、少量のガラス成分を作る程度に限られます。着色剤に酸化銅などを加えますが、銅は、多すぎると黒を、還元状態で赤を発色させ、黄には、鉛と酸化アンチモン鉱石を用います。

　ガラスを融解させる熱い作業によるビーズと対照的に、胎の表面にガラス状の物質を作るために「冷たい釉薬」ペーストを準備し、釉薬を胎に塗って加熱という、冷たい作業で制作されます。

　淡い水色の釉薬を残す本品は、ローマ期まで広く制作されたファイアンスで、ガラス・ビーズ理解に不可欠な先駆のビーズとして、また、胎を覆う淡い色合いで春を感じさせてくれる、数少ない美玉です。

サイズ　高さ約10㍉　幅約11㍉　孔径約1.5㍉