西アジア出土の小さなステアタイト製護符で、前2500年～前1800年頃のビーズと入手時に聞きました。下側が丸みのある三角型で、剣型ともいわれます。暗い青の胎は滑らかで、裏面は平らですが、表面と縁はわずかに丸みを帯び、側面に施された孔に紐を通して着けると、この三角型が正面を向きます。

　色は、黒（濃い青緑）で、裏側やとくに下部の丸い部分に、半透明な暗い黄緑片や斑点が見られます。素材のステアタイト（凍石）は、モース硬度1と柔らかく、主に青緑色を示しますが、含まれる不純物によって白、ピンク、薄緑、灰色となります。

　素材の点では、前4000年期後半には、ユーフラテス河沿いサイト（現シリア）では、ビーズ職人がステアタイトやカーネリアで高級な宝石を制作し、また、熱処理されたスタアタイトの白ビーズや、エジプトでは前5000年期央までに釉薬付きステアタイト・ビーズが、ガラスの先駆ファイアンスに先んじて制作されました。前3500年頃には、赤いステアタイトの球形や管形ビーズ、また、白、赤茶、黒の正方計板型ビーズが研究書に掲載されています。

　前2500年～前1800年頃のビーズという入手時の説明もほぼ納得できますし、類例はそれ以前に広く制作されていました。

　形状の点では、側面穿孔の類例が前7000年頃に、色も黒（黒青緑）で、胎に本品と同様に斑点付きビーズが、素材記載はなく掲載され、前3200年頃に赤いステアタイトのビーズで、胎と直角の孔の例が、別の研究書に見られます。また、前100年頃のローマ初期には、形状の似た、縞メモウ製や、メノウを模して白い横線つきのガラス製の、ビーズが存在します。

　この形状は「聖なる剣」を指すとの、出典不明ながら指摘されます。仮に剣をナイフと想定すると、エジプト神話では、オシリス神（顕著な植物神）を殺害した暗黒神（動物のオリックスの形）を生贄にした図に、「フリント（黒灰色の石英）製ナイフ」が見られます。また、エジプト神話を継承しローマ期にも、邪視を根絶するために、目にナイフと2本の矢を刺すモチーフが見られます。ナイフ、刀は、悪を根絶し、聖なるモノとされたのかもしれません。

　小さな本品は、前4000年期に類例をもち、ナイフ（剣）の形状が神話にも関わる、深い意味を秘めた興味深いビーズです。

サイズ　縦約12㍉　幅約8㍉　孔径約㍉弱　厚さ訳4㍉