《稀少本》
現代絵画入門
二十世紀美術をどう読み解くか
山梨俊夫
定価: ￥ 700+税

#山梨俊夫 #本 #歴史／世界史

現代絵画はむずかしいと言われる。なぜか。ひとえに、絵が外界を忠実に写すことをやめ、画家の欲望に従って絵画自体の要求に応えていくようになったからである。変貌を続ける現代の絵画も、その仕組みを知れば豊かに語りかけてくる。画家の欲望とは、絵画の要求とは何か。本書は、マティス、カンディンスキーらを経て、ロスコ、キーファーに至る多彩な作品をたどりつつ、四つの視点から絵画の根幹を解き明かそうとする試みである。


画家が絵画に自らを表わそうとするときには、既成の約束事が影をひそめる。むしろ、それらは障害になる。「自己表現」は、画家の内面の表出を目指す一方で、絵画の要素でいかに手つかずの、自分にしかない絵画を新たに組み立てていくかという点で、きわめて絵画的な側面をあらわにしていくのである。
しばしば、文学性や物語的な性格は排除すべきだと言われる。それはつまり、絵画はそれ自体を成り立たせている形と色、さらにそこに加わるようになる物質性を強調するマティエールや物質としての外見などの、絵画自体が抱える要素でこそ考えられなくてはならないとする絵画の論理を優先させることだ。
自己を表わす、という主題はつねに抽象的で、それを表現するためには具体的な手段が必要になるのは言うまでもない。自己表現が性急で直接なものになれば、それだけ絵画に対する働きかけも直接になる。何かを介在させることが少なくなる。沸騰する自己や、そこから発する激情に導かれていれば、絵画の側の論理もそれに従う。だが次第に、絵画はおのずからな自己の表現だとの考えが一般化すると、その表現自体が絵画の組み立てに吸収され、絵画の論理と平行するようになる。
絵画の論理は画家の個人的な意図で動かされていく。造形性を一義にして絵画が絵画自体の要請で築かれることと、自らを表現するという画家の欲求とは矛盾しない。造形性を追求した結果築きあげられていく絵画には、あらかじめ与えられた規格を無視して家をつくる大工と同じく、画家の意図が制作の現場で練られ反映される。絵画の論理は個人的な様式を堪える。そこから画家ひとりひとりの独創性を重要なものと考える視点が生まれる。
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〈第1章 絵の変身―絵画の自立 より〉

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