経年によるヤケがあります。古書店の紙を剥がした跡があります。それ以外はおおむね良好なコンディションだと思います。中古本であることをご理解いただきご検討いただければと思います。本の状態ができるだけわかるように写真を撮りましたのでご覧いただければと思います。

小林秀雄初期文芸論集 小林 秀雄 著 定価1,276円 通し番号:緑95-1 刊行日:1980/04/16
文庫 456ページ

日本の近代文学の批評の場に新たな地平を拓いた批評家小林秀雄の初期評論集．昭和四年（一九二九）のデビュー作「様々なる意匠」にはじまる独特の詩魂に彩られた若き日の著者の文学的達成を，その出発から昭和十年までに区切って精選，年代順に配列した．それ以前の重要な一篇「ランボオ」をも併せ収める

芸術の性格は，この世を離れた美の国を，この世を離れた真の世界を，吾々に見せてくれる事にはなく，そこには常に人間情熱が，最も明瞭な記号として存するという点にある．芸術の有する永遠の観念というが如き美学斜塔の発明にかかる妖怪に過ぎず，作品が神来を現そうと，非情を現そうと，気魄を現そうと，人間臭を離るべくもない．芸術は常に最も人間的な遊戯であり，人間臭の最も逆説的な表現である．たとえば天平の彫刻は，人の言うが如く非個性的だが，非個性的という事は非人間的という事にはならない，天平人らは，己の作品をこの世から決定的に独立したものとしようと企図したのではない．ただ個性というが如き観念論的な近代人の有する怪物を，彼らは知らなかったに過ぎない．吾々が彼らの造型に動かされる所以は，彼らの造型を彼らの心として感ずるからである． 人は芸術というものを対象化して眺める時，或る表象の喚起する或る感動として考えるか，或る感動を喚起する或る表象として考えるか二途しかない．ここに恐らくあらゆる学術中の 美学というものが，少なくとも芸術家にとっては無用の長物である所以がある．観念的美学者は，芸術の構造を如何ようにも精密に説明する事が出来る．なぜなら彼らにとって結局芸術とは様々な芸術的感動の総和以外の何物も意味してはいないからだ．実証的美学者らは，芸術がこの世に出現する法則に就いて如何ようにも正確な図式を作る事が出来る，何故なら，彼らにとって芸術とは人間歴史が生む様々な表現技術の一種に他ならないためである（「様々なる意匠」）