本品は、細身の小玉アイ・ビーズ2つです。細身アイ・ビーズは、A Bead Timelineでは、前500年頃のフェニキア玉に4つほど掲載され、その後はほぼ掲載されません。1-4C頃にも細身のフェニキア系アイ・ビーズが見られますが、ローマ期に交易により西アジアなどに広まりました。

1つめ、クリアな薄緑アイのビーズ（左側）では、黒い胎に細い巻き線の跡が見え（8枚め）、胎の一部や孔の内側に茶色の物質が付着します。巻き線跡は、経年風化により胎が枯れて別の金属を含む部分が残ったとされ、胎や孔の茶物質は、ガラスが地中で化学反応により生じた銀化が、油脂や水に触れて黄や赤茶に変色し、これが本品でも生じたと思われます。

　2層アイ・モチーフ3つが不均等に置かれ、保護円盤には黄、瞳にはクリアな薄緑色と、ローマン・アイではあまり見ない色のガラスが使用されています。前書では、円盤が黄のビーズは前500年頃に3個ほど、また、前200年～後100年頃の初期ローマン丸玉で10個ほどが掲載されます。ただ、黄色の円盤は、フェニキア・ビーズの典型とされますので、本品は前8C～前6C頃のフェニキア・ビーズと考えられます。

　クリア薄緑の瞳は、ローマン・ビーズにはコバルト青による濃い青のアイが多い中で、数少ない色合いで、クリアな緑ガラスは、原料珪砂に含まれる酸化鉄による着色とされ、本品にも該当するかもしれません。

　2つめ、粗い胎に上下交互にアイ6つのビーズは、孔が胎に多く、低い融解温度でのガラス製造・ビーズ制作を示し、素材の珪砂に含まれた不純物が残ったと考えられます。また、孔や芯軸には、同様に、油脂や水に触れて生じた黄の物質が見られます。

　瞳には、コバルト青が少しの使用で済むように制作されと言え、古代早期にコバルト青ガラスは極めて高価なための措置と見なせます。本品がフェニキア・ビーズかは別にして、表面の粗さや小さなコバルト青から、相当古い時期のビーズと推測されます。

　ガラスの普及するローマ期前のファニキア期には、ガラス隗も貴重で高価なため護符に必要なアイ・ビーズも、少量で済む細身ビーズが多く制作されたと見なせ、細身ビーズが多いことも納得できます。本品2つは、フェニキア・ビーズ特徴やその可能性を伝える、古い風合いの細身アイ・ビーズです。

　サイズ左側　縦約4㍉　幅約6㍉　孔径約3㍉