廃墟の残響 戦後漫画の原像
桜井哲夫
NTT出版
2,100円(+税)

カバーにややスレあり。
全体やや疲れあり。


【細野晴臣による書評(一部抜粋)】
南方の戦争で腕を失った水木しげるの話が序文で語られる。続く第一章は日本が行った満州政策の顛末から始まる。その満州で地図作りの技能を買われ、関東軍の特殊任務に就いていたのが長井勝一で、後に青林堂を立ち上げ、漫画月刊誌「ガロ」を創刊した。
ここで序文の水木しげるの話が布石と気づき、戦後に至る日本の漫画家の運命が見えてくる。高井研一郎、上田トシコ、ちばてつや、森田拳次、古谷三敏、北見けんいち、そして赤塚不二夫ら満州にいた漫画家のそれぞれが敗戦を機に大陸を脱出する。皆、満州で子供時代を過ごしたという事実に驚かされる。

混乱の時代を俯瞰しながら才人に焦点を絞る著者の話法に引き込まれ、まるでドキュメンタリー映画を見た心地になる。戦後の日本文化は、漫画家が牽引したのかもしれない。それがその後のアニメ文化隆盛に繋がっていく。
本書は漫画家に限らず、戦後文化を活気づけた人たちの活動の大きな根源が敗戦や満州、原爆だったことを改めて考えさせる。

【目次】
■序　章　水木しげるの戦争
　劣等生、召集される
　「総員玉砕せよ!」

■満洲国崩壊
　敗戦前の満洲国
　帝国の崩壊
　敗戦後の日々
　母ちゃんがあぶない
　葫蘆島に向かう無蓋列車の記憶

■廃墟にたたずむ手塚治虫
　手塚の昭和20年
　敗戦間際の死
　終戦後の習作漫画
　漫画家デビュー

■赤本ブームから貸本文化へ
　焼跡の漫画雑誌と赤本漫画
　手塚治虫と酒井七馬
　『新宝島』の衝撃
　手塚作品にみる廃墟の想念
　「紙芝居」と水木しげる

■白土三平とその父
　白土三平の生い立ち
　紙芝居画家「ノボル」
　漫画家・白土三平の誕生

■トキワ荘グループと劇画工房
　『漫画少年』創刊
　トキワ荘に集う若者
　表舞台から消えた寺田ヒロオ
　劇画工房誕生

■青年漫画の時代
　長井勝一と『忍者武芸帳』
　『ガロ』と『COM』
　「青年漫画」とは
　1970年代の漫画界
　廃墟の残響

■終章　「廃墟」に向き合う
　「新世紀エヴァンゲリオン」と廃墟の不在
　「廃墟」の隠蔽

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