1974年 厚さ約1.1cm

織田一磨 おだ-かずま

1882－1956　明治-昭和時代の版画家。
明治15年11月11日生まれ。洋画を川村清雄に,石版画を金子政次郎にまなび,文展,二科展などに出品。大正7年日本創作版画協会を創立。昭和5年洋風版画会を設立した。浮世絵の研究家としても知られる。昭和31年3月8日死去。73歳。東京出身。作品に「東京風景」「大阪風景」など。
出典　講談社

織田一磨君作東京風景版畫集の序
永井荷風
織田一磨君東京市中の街衢臺榭市廛寺祠城郭河川溝渠丘坡およそ都人日常目睹する處の風景を描き西洋銅版畫製作の法を採り 之を日本に應用し、新案の風景版畫を製出す。 君この事に従ふこと一年有半自ら工人を管督し版畫およそ二十種を成し得た り。即ち装演して汎く同好の士に頒たんとするや、余に求むるに解題を著けん事を以てす。 余靜に織田君が新案の版畫を展閲 するに清潤温雅の畫風更に奇を弄せず只管易普遍の趣味に立ちて而も亦一點市氣の厭ふべきものを見ず。是蓋し才識雙備の 畫人よく版畫の性質の何たるかを思慮し然る後悠々筆を下せしものに非ずんば孰ぞ能く此の如くなるを得んや。余私に思ふに 版畫の傑作と稱すべきは其の我が錦繪たると西洋の銅版畫たるとの別なく齊しく平易輕妙の中自可憐の情味言辭に述べ難き ものからざる可らず。此に於て片々たる一小版畫始めてよく純正美術の製作と比肩するを得るなり。 今肉筆大幅の名畫を以 て園池の佳樹に譬へんか可憐の小版畫は正に窓前一瓶の草花なるべし。 草花は何人も之を購得べし版畫は即何人にも解し易か るべきを要す。然りと雖この平易通俗たる一歩を誤りて卑俗に流るれば忽婦女の玩具商舗の招牌と撰ぶ處なきに至らん。然れ ば版畫の名作は恰も優美なる民謡のよく田夫野人の心情と共に併せて高人韻士の吟懐をも動すが如きものならざる可からず。 織田君の東京風景は能くこの雅と俗との境に於ける機密を捉へ得て誤なきに似たり。題して既に東京風景といひ描くに日本橋 上野草等を以てす。當世野蠻の國會議員無智の新聞記者と雖看來って直に其の何たるかを知るべし。而して製作者の美術家 たる面目に至っては決してこの平易通俗なるが爲に沒却せる、に非らず。畫中の布局設色並に光線空氣時間の描法仔細に列 擧し来れば一として製作者の才技凡ならざるを證せざるはなし。 そ畫家にして其の技一度神に入るや期せずして自ら獨得の 天地をなし一家の風を生ず。これを我が風景版畫の泰斗葛飾北齋安藤廣重井草國芳等に見るに其の描く處の名所大抵相同じと 雖その氣味風韻に到っては決して相同からず。諸家各得意の筆法あって得意の山水を作す處朗永く美術の逸品として欣賞に値 する所以なるべし。織田一磨君既に一家の法を具ふ。今その東京風景版畫を把って之を北齋廣重等の江戸名頭思ひ小樽市基 の東京名所に比較せんか、時勢と美術と兩様の興趣津々として盡きざるものあり。 今日我國首都外觀の變革甚急なる昨日街頭 仰ぎ見し處の高廈巨木、今日再び来れば忽烏有に歸して尋ねんとして尋ねべからざるもの擧げて數へ難し。

表紙小傷、小汚れ。ページ小黄ばみ。もちろん読む分には問題ありません。

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