1993年　572P

あとがき
塚原鉄雄先生には、本年、平成五年六月二十五日、古稀の賀齢をお重ねになられる。平均寿命が如何に伸びようと それはそれ。先生個人について見れば、やはり人生七十古来稀なりおめでたい極みである。ここに、改めて、 先生の一層の御健勝を切に祈念申し上げたい。
先生の古稀を記念する事業として、御著作『国語表現の史的形成』の刊行をお教えを受けた者どもで校正などお 手伝いさせていただいて、ということになった。 ここ十年、即ち還暦前後から、先生の胸に去来する、過去総括への 想念が、門弟それぞれの心を打ち続けていたからでもある。「過去の総括」と言っても様々の総括があり得る。過ぎし Bに提起した問題について、自らの解答を、次の世代のためにと言うよりも、問題提起の責任の重大さゆえに、 提示しておこうとすることも、それであろうし、執筆して来た論文の体系化に努めることも、「過去の総括」に相違な い。 この「過去の総括」が二つながらに成り立ち得るのは、まさに「余命の人生を基礎づけ方向づける、そのために、 自己の過去を収束して自覚的に認識する」(『華甲夢幻』)ところにおいてであろう。その意味において、前者の「過去の 総括」に向けて先生の全力を傾けていただきたい一心で、後者の「過去の総括」のお手伝いを申し出たというわけで ある。この「国語表現の史的形成」は、先生の、後者の「過去の総括」の一端である。この種の「一端」 「一端」が、 前者の「過去の総括」と繋がってゆく時、塚原鉄雄先生の新しい世界が展開されることになる。
中古文学会代表委員、国語学会評議員という、学界の中枢にあられて、現在も御活躍中の先生御自身の研究書であ りながら、扉において算賀有志編と銘打ったのは、古稀記念という里程標を師弟相協力して樹てたのだということを
明記しておきたいという、他ならぬ先生のお気持に基づく。
新旧の論文の問題は、四十年の長きにわたるために、旧稿の中には、現在の御見解と一致しないものが若干あるの も当然であろう。例えば、落窪冒頭の表現構成がそれである。ただし、発表当時の御見解を尊重して修正はしなかっ た。 塚原学の瑞々しい息吹とその後の展開とを、この「国語表現の史的形成』から改めて感じ取りたいと思う。
この記念事業に協力した教え子は巻末に掲げたとおりである。その順序は、先生とお呼びして、お教えを受けた缶 代のそれに従っている。私が算賀編集委員会の代表をつとめているのも、実は、四十五年という、その古さによっ のことである。
華甲記念の 『資産別神社落窪物語』に続いて、 古稀記念の本書の刊行を快諾せられた新典社、松本輝茂社長、松本
ケ子編集部長に心より感謝の念を表わし、刊行の喜びを共にしていただきたいと思う。
平成五年二月二十五日
塚原鉄雄先生古稀算賀編集委員会代表
安田

外箱小傷、外箱背表紙部分やけ。本体は比較的きれいです。