《稀少本》
江戸俳画紀行 蕪村の花見、一茶の正月
磯辺 勝
定価: ￥ 860+税

俳句と絵の取り合わせの妙を楽しむ俳画。芭蕉、蕪村、一茶をはじめ江戸の俳人二十三人の俳画から、その時代や人物像を辿ってゆく

句と絵の取り合わせの妙を楽しむのが俳画である。江戸時代には、蕪村のような一流の画人でもあった俳人も、一茶のような、おせじにも絵が上手とはいえない俳人も、みな俳画を描いた。本書は、俳人二十三人の俳画を一つずつ選び、その時代や土地柄、そして人物像を丹念に辿ってゆく試みである。ともすると芭蕉、蕪村、一茶一辺倒になりがちな俳諧鑑賞の可能性を広げ、その風流や滑稽味をより身近なものとする。

目次
横井也有―楽しき隠居暮らし
井原西鶴―月夜をゆく男
建部涼袋―軽すぎる風の袋
松岡青蘿―サンボリズム宣言
常世田長翠―酒田居よいか
藤森素檗―油を売る主人
大伴大江丸―俳界の飛脚
松尾芭蕉―馬上の芭蕉
松窓乙二―蝦夷へ飛ぶ密使
三浦樗良―追われた嘉助〔ほか〕


蕪村の諧謔は、風刺や皮肉といった性質のものでも、滑稽な笑いでも、ナンセンスの奇妙さでもない。ユーモアとか、おかしさといった程度のものでもない。その本質を敢えていうなら、それは、人間や人間の心、あるいは批評といったものを一気に理解させてしまうための、ひとつの手法になっているのである。シリアスな内容を、くだけたことばや絵によって瞬時に私たちに呑みこませてしまう。そういう蕪村の諧謔が、最もわかりやすく生かされているのが、俳画であるといってよいだろう。
蕪村の「奥の細道図」(京都国立博物館蔵)などを見ると、私たちはそこに描かれている絵を見て、一瞬のうちに蕪村が「奥の細道」をどう読み取り、どう伝えようとしているかを理解することができる。絵にはユーモラスな部分もあるが、どこにも笑わせようとして描かれたとこりなどはない。ただ、その絵が到達している驚くべき味わいによって、蕪村のとらえた「奥の細道」が、理屈抜きで、ほのぼのと喜ばしく伝わってくるのだ。

松尾芭蕉の弟子は気の毒である。なかなかすっきりと独立した俳人としてみてもらえない。とかく芭蕉が半分、本人が半分といった存在として扱われる。
だが、宝井其角あたりになると、芭蕉の弟子の一人、では片付けられない。芭蕉とは資質もめざすところも違う。
……

表紙に少しヤケあり、それ以外は良好