『カジュアリーナ・トリー（The Casuarina Tree）』は、サマセット・モームが1926年に発表した短編集で、イギリス植民地時代のマレー半島を舞台にした6つの物語が収められています。タイトルの「カジュアリーナ」は、熱帯地方に生息する松に似た木の名前で、植民地の雰囲気を象徴しています。

この短編集では、植民地社会に生きる英国人のエリートたちが、異国の地で直面する道徳的ジレンマや人間関係のもつれを描いています。モーム特有の皮肉と洞察に満ちた筆致で、虚栄心、偽善、愛憎、欲望といった人間の本質があぶり出されます。例えば、「フェアリー・プリンス」では、イギリスの官僚と現地人女性との恋愛を通じて、文化的な誤解や階級意識の問題が浮き彫りになります。また、「黄色い斑点」では、マラリアに苦しむ役人の心理的な葛藤が描かれています。

モームは植民地支配に対して単なる批判をするのではなく、そこで暮らす人々の複雑な感情や価値観を冷静に観察し、リアルな人間ドラマを生み出しています。短編ながらも濃密なストーリー展開と鋭い人間描写が魅力で、モームの代表的な短編集のひとつとされています。

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