名刀虎徹
小笠原 信夫
定価: ￥ 770+税

日本刀の名工として正宗と並び称されるのが長曽祢虎徹です。
越前の甲冑師から五十歳で江戸の刀鍛冶に転じたという謎に満ちた生涯。美にこだわった正宗に対し、太平の世にありながら、あくまで斬れ味にこだわったその作風。井伊直弼、近藤勇、勝海舟、犬養木堂らに愛された独特の魅力――。文春新書好評既刊『日本刀――日本の技と美と魂』の著者が豊富な図版とともに、人と作品の核心に迫ります。


➣切れる刀剣の追求
…。この虎徹人気は単に「斬れるものを作る技」が優れたというだけではなく、刀剣として究極の理想を求めたことが、人を魅了するに至ったのであろう。人を魅了する強い力とは、作品に対する好悪の感情は主観によって異なるが、虎徹が業物として他工より抜きん出て優れていることは、客観的事実として認めざるを得ないことにあるだろう。これは美的表現とは別の「道具としての技」といえるものである。

…、虎徹が目標とした作刀は、あくまでも切れる刀剣への追求であって、きれいな地鉄に拘泥はしなかったといえるのではないか。虎徹の作刀から感じる良さは地鉄、刃文の完成度のすばらしさというもの以外に刀剣というものの本質を根本から追求していると思われるところにある。
〈第２章「技の神髄」より〉

➣虎徹を愛した名士たち
近藤勇、勝海舟、大久保一翁、木戸孝允、井伊直弼、山岡鉄舟、山田浅右衛門、犬養木堂、他
〈第６章「虎徹の名刀十口」より〉

「虎徹」柴田錬三郎
甲冑師から刀工になった長曽祢興里は、長き雌伏の時を経て、数多くの刀を鍛造する。興里の入道名である″虎徹″で呼ばれるそれらの刀は、武士たちにとっては垂涎の逸品であった。一例として、新選組隊長の近藤勇を挙げよう。彼の愛刀が虎徹だったことは、よく知られている（偽名説あり）。
そんな虎徹の生みの親である興里の半生を、時代小説界の巨匠は自在に書き上げた。血風と淫臭に満ちた興里の父親の話から、錬三郎節は全開。有名な兜斬りや石灯籠斬りのエピソードに、奔放なフィクションを加え、読みがいのあるストーリーに仕立てたのだ。若年寄の稲葉石見守の為に打った殿中差しが、後の刃傷事件へと繋がっていく展開も秀逸。″花も実もある絵空事″を物語のモットーとしていた、作者らしい作品なのである。
〈傑作日本刀小説アンソロジー
　『名刀伝２』より〉

美品