冒頭のあいさつ

今世紀初頭のキュビスムや未来派など抽象美術の先駆的動向をうけて、1910年代以降、ヨーロッパ各地では、一斉に前衛的な美術運動が開花しました。なかでも、ダダとロシア構成主義は、ともに芸術全般に関わった二大潮流であるといえましょう。
第一次大戦を背景に、チューリッヒ、ベルリン、パリなどヨーロッパ各地で同時多発的に発生したダダは、すべての既成価値や概念に疑義を提出し、破壊し、かつその中で創造の方途を模索しました。また、旧来の美術の枠組を拒否し、鉄やワイヤーなど現実的素材を使用して無対象の美の世界を創出した構成主義は、口シア革命の推進者としての役割を担いました。
この二つの運動は、一見，全く異なった運動論理を有しているかのようでありながら、物質や素材へのアプローチの態度や、個個の造形要素を重視した純粋造形への志向性、音声詩や、写真、舞台、映画など数々の芸術的実験など、多くの共通項を見出すことができます。また事実、両者間に共同プログラムなど相互交流の歴史があったことも知られています。
本展は、これまで別の文脈で語られがちであったこの二つの運動が共有したもののうち、特に造形の基本要素とその構成という点に焦点をあて、相互作用を明らかにするとともに、さらにそれらがその後の抽象芸術にどのような影響を与えたのかを探るものです。
本展は、アルプ、ドゥースプルフ、デュシャン、エルンスト、ハウスマン、リシツキー、マレーヴィッチ、モホイナジ、ピカビア，ロトチェンコ、シュヴィッタース、タトリンなど40余作家，約120点の作品を、I．先駆、I．ダダ作品、II.基本要素と構造、IV. 構成主義的素材、V.綜合的作品、という5つのセクションに分類して構成したもので、造形美術のみならず、言語芸術から建築，都市環境までをつらぬく20世紀文化の根本的特徴を浮き彫りにしようとする意義ある企画と信じます。
本展のために貴重な作品を快くご出品下さいました世界各国の美術館，所蔵家をはじめ、本展実現のため惜しみないご協力を賜わった関係各位、とりわけインターナショナル・ミュゼアムズ・エージェンシー，ロンドンのアニリー・ジュダ夫人、デイヴィド・ジュ
ダ氏，イアン・バーカー氏，そして美術史家アンドレイ・ナーコフ氏に対し、ここに心からの謝意を表するものであります。

古い書籍ですので変色等は有ります。