昭和42年　243ページ

江戸前期の兵法書。2巻。松平信興著とされる。天和3年（1683）以前の成立。弘化3年（1846）刊。雑兵の話に託し、戦場・武備・武具などの重要事項を口語で記したもの

奴言葉を用いた読物文学調による功名談・失敗談・見聞談からなる物語戦陣訓「雑兵物語」2巻の校注を通して、足軽を現代に考証する。

最近、「足軽」という言葉をよく聞くが、その実体について、どの程度に理解されているかは疑わしい。本書は、そ うした意味合いからも、足軽の何たるかを、豊富な絵図を付しながら、当時の実際の姿を再現しようというものである 『雑兵物語』二巻は、江戸時代の初期、戦陣を体験した老軍学者によって、当時流行の奴言葉を用いた読み物文学 の手法をかりた、鉄炮足軽・弓足軽・雛担・馬標持・旗差・特筒・持弓・草履取・挾箱持・馬・矢箱持・玉箱持・ 荷宰料・夫丸・若党・中間ら三十名の功名談、失敗談、見聞談からなる物語戦陣訓である。
現在、伝存する写本が多いが、大河内信興の家臣、田代定右衛門忠金の「陪従私記』の記事にも、信興が平生「具 足着様巻、雑兵物語、或は諸卒出立の絵巻物、或は兵器骨牌を御出し御見せ被成、幼少より合戦の出立、武器の品々 自然と覚え候様に所遊し、誠にありがたき御事なり」とあって、それ以来、心ある武人には一種の「歩兵操典」とし て珍重され、次から次へと転写をかさね、読まれたものである。
ようやく幕末弘化三年(一八四六) 刊本となり、一層普及された。 この刊本には読易きをはかって、振仮名を多く付 してあり、かなり理解し易くなっている。それでも、いざ手にして見ると、写本と版本と読みの異同がかなりあり、 どのように読み下してよいか意外に迷うことが多い。
そこで、本書は一般読者の便を計って、『雑兵物語』の読み物としてのおもしろさを伝えることに重点をおいた。 まず刊本に先行する一本として全振仮名を付した江戸中期の写本を参照し、ルビを付した。さらに刊本、いくつか の写本との異を付して、できるだけ当初の姿を示すことを考える一方、『陪従私記』の記事のように、兵書として、 『諸卒出立』その他の図巻、『武者言葉大概』を付して内容の理解を図ろうとしたものである。
浅野長武

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